INTRODUCTIONイントロダクション
STORYストーリー
東京・新宿歌舞伎町に隣接し、韓国料理店が立ち並ぶ大久保の路地に、エイビイシイ保育園はある。ここは24時間体制で運営される認可夜間保育園。昼と夜、平日と週末、働く時間が不規則な親たちの生活リズムに寄り添いながら、子どもたちの「いつもの日常」を守り続けてきた場所だ。
今の時代、夜間勤務のある仕事はさまざまな業界、業種にある。エイビイシイ保育園は、そうした現代の子育てに真摯に寄り添い、親たちを助けてきた。
園を立ち上げたのは、片野清美園長。43年前に保育園を始め、現在76歳となった今も、毎日現場に立ち、子どもたちの表情を見て、声をかけ、眠りにつく背中をそっと支えている。共働きが当たり前になった現代日本で、「働くこと」と「子どもを育てること」が同時に成立するためには、社会はどうあるべきか。片野はその問いを、制度や理想論ではなく、目の前の一人ひとりの親子と向き合うことから考え続けてきた。
夜間保育は、単なる“預かりサービス”ではない。親が働くために必要であると同時に、子どもが安心して生活し、育つための土台でもある。誰かが夜を生きる社会の裏側で、子どもたちの夜もまた続いている。深夜の静けさ、泣き声のない時間、突然の発熱、迎えの遅れ、親が抱える罪悪感や焦り、そして「ありがとう」としか言えない瞬間——。カメラは、見過ごされがちな社会の片隅を、センセーショナルにではなく、丁寧な眼差しで映し出していく。
そして、エイビイシイ保育園が大切にしているのは、子どもたちの「食」でもある。
食育を柱のひとつに据え、園ではオーガニックの食材を選びながら、減塩・減糖の食事を日々の献立として子どもたちに提供している。さらに園は、鹿児島県の循環器内科の医師・中尾正一郎先生のもとを訪ね、ある調理法を学びに行った。その調理法は「無塩無糖」——塩も砂糖も使わずに素材の力を引き出す食のあり方だ。中尾先生は無塩無糖の食生活を25年以上続けており、その実践は、園の台所にも静かに受け継がれていく。夜を預かるだけでなく、子どもの身体の土台をつくること。その思想が、毎日の食卓に形となって現れる。
さらに物語は、大久保の一園にとどまらない。夜間保育の必要性は全国へ広がり、福岡のどろんこ保育園では、園長の天久薫が現場を率いながら夜間保育を行い、子どもが自ら育つことを大切にするモンテッソーリ教育を掲げている。「預かる」だけではなく、「育ちの環境をどうつくるか」という新たな挑戦が、現場の試行錯誤として立ち上がってくる。
働く親たち、子どもたち、保育士たち、そして制度の隙間で支え合ってきた人々。そこには、社会が“当然”としてきた家族像や働き方への問いがある。夜間保育園は、社会の周縁にあるのではなく、実は私たちの暮らしを下から支えるインフラなのだ。本作は当事者たちのリアルな声と時間の積み重ねを通して、「子育て」と「労働」の現在地を見つめ直し、これからのケアのあり方を静かに、しかし確かな熱量で問いかける。
GREETING挨拶
監督 ⽚野 仁志(エイビイシイ保育園理事長)
夜も昼と同じ位、いろいろな仕事がある。私たちの⽣活に必要な仕事をしてくれる人たちがいて、その家庭の子育てを支える夜間保育園。
この映画は子育て真っ最中の現場からの発信です。全国で39,000か所ある認可保育施設は、ほとんどが午後7時前後に閉まってしまう。共働き家庭が増える中、午後5時から6時位までの就業でなければ保育園のお迎え時間に間に合わない。
多様な働き方や職業に対応し、みんなが利⽤できる保育園にならないといけない。もっと保育施設が利⽤者に合わせて運営できれば、働きながら子育てをしている家庭はどれほど助かるか。若い夫婦が2人⽬を産んでも安心して働き続けられる社会に、少子化は起こらない。
ではなぜ、延長夜間保育までやろうという認可保育施設が増えないのか。基本時間である11時間開所であれば、11時間分の運営補助が出ているが、例えば16時間開所をした場合、16時間分の運営補助が出ないからである。基本時間以外は加算扱いで、開所時間に比例した補助体制がないため、長くやればやるほど経営を圧迫されるからである。
認可の夜間保育園は全国で73箇所、73∕39,000である。厚⽣労働省が発表した2024年の合計特殊出⽣率は、1.15人。人⼝維持するための出⽣率は2.07人。出⽣数も初めて70万人を割り込んだ。
コンビニの名前ではないが、朝7時から夜11時位まで開所できれば、どれだけ働きながら子育てをしている家庭の助けになれることか。
病院と同じように、いつでも誰でもすぐに利⽤できるようにならないといけない。
保育施設に求められるニーズは変わりつつある。昭和の保育所の役割は終わりを告げ、未来への道はまだ⾒つかっていない。しかし私たちはあらゆる可能性に向かって⾛っています。私は夜間保育の歴史と経験が、きたるべき変化をもたらしてくれると信じています。
エイビイシイ保育園 園長 ⽚野 清美
1981年ベビーホテル対策として、夜間保育が制度化されました。エイビイシイ保育園は、1983年東京都新宿区⼤久保のビルの1室から無認可保育園としてスタートしました。子供を抱えて夜働く多くの女性たちがいる眠らない街。夜間保育施設にするつもりはありませんでしたが、場所柄24時間型保育園になってしまいました。あらゆる親のニーズを受け⽌め、どの時間帯でも預けることのできる保育園として出発しました。産休明け保育、乳児保育、夜間保育、深夜保育、緊急⼀時保育、休⽇保育、夜間学童保育などです。
当時はまだ夜間保育が「悪」とされる時代でしたが、どの時代でも子どもたちが健やかに育つことを願い、私たちは毎⽇奮闘しました。本当に無認可保育園というのは、お金がなく経営は厳しい。いつもいつも頭の中はやりくりのことばかりに追われ、バザーなどをよくやっていました。
公立保育園や私立の認可保育園に通っている子どもたちは、みんなきちっとした処遇を受けているのに、なぜ夜間に来ている子どもたちは何の保証もないのだろう。それほど夜間保育を必要とする子どもたちは多かったのです。
子どもが増えるごとに経営はきつくなります。しかし保育内容は充実し、楽しくなりました。職員も保育を楽しみながら、子どもたちと⽣活を共にしていました。いつも明るい夢や⽬標を掲げていました。「いつかはみんなで夜間保育園を作ろう」と、夜間を必要とする親子のために公的な立場の保育園を作ることを⽬標にし、突き進んできました。
2001年4⽉東京都ではじめての24時間体制の認可保育園になりました。無認可保育園「ABC乳児保育園」としての18年間の実績が認められ、昼も夜も子どもは平等、と言うポリシーが達成されました。同じ思いでがんばってきた仲間たちの熱い思いが作り上げた夜間保育園なのです。
親の職業は公務員や会社員、医師、看護師、出版関係、芸能関係、デパート勤務、教師、⾃営業やサービス業など多種多様です。母親はフルタイムの勤務者が ほとんどのため、どうしても延長保育や夜間保育が必要になります。
深夜までの運営だからといってそんな時間帯まで子供が遊んでいるわけではありません。保育園にも決められた1⽇の⽣活リズムがあります。家庭にいるのと同じように食事をし、遊び、入浴し、夜は9時には就寝するのです。24時間都市、東京、そして新宿を支えてくれている保護者、また母子家庭や父子家庭など、家庭環境も人それぞれです。
働きながら子育てをするためには、多種多様な職業に対応できる保育園、そして保育時間帯が必要です。私は胸を張って言いたい。昼間の保育園に通っている子どもたちより⽣活リズムが整い、元気な子どもに育っていると。また、夜間保育園の特徴として、時間を気にせず子供たちとゆっくり過ごせるのが利点だと思います。
夜間保育をすることが是か否かと言う議論をしてみても、夜働く親の抱える問題が解決するわけではありません。現実に夜間保育を必要としている子どもがいるのなら、ベビーホテルに⾏かなければならない子どもがいるのなら、もっと安心できる、そしてより豊かに過ごせる、そんな⽣活を保証してあげたいです。
そうすれば親は安心して、⼀⽣懸命働くことができるのです。⽣き⽣きと働いている親は子どもともいい顔で向き合えます。親が子どもと良い顔で向き合えることほど⼤事な事はありません。
「保育園はこうあるべき」「家庭とはこういうもの」論では、現実の⼒にはなりません。親と子の⽣活の中から、現実の夜間保育の実践の中から、今⽇の保育、今⽇の家庭、今⽇の子育てのあり方を、探っていくことが重要だと考えます。
どろんこ保育園 理事長 天久 薫
どろんこ保育園の前身は、昭和48年開園の無認可の博多夜間保育園です。そこには労働基準法で守られていない母親たちと、児童福祉法で守られていない子どもたちがいました。3⽇働いても3⽇休めば、給料はプラスマイナス0と言う信じられない世界がありました。保育に欠けていても、夜間ならば市町村に保育実施義務はないと言う不条理な世界がありました。
当時私はまだ法学部の学⽣でした。無認可の夜間保育園には⽣存権の保障、法の下の平等、職業選択の⾃由、といった憲法の精神や諸々の法律ではカバーできない⾏政の深い谷間がありました。
しかしその深い谷間には、養護施設や乳児院のお世話にならずに、子どもと⼀緒に暮らしたい、⽣活保護のお世話にならずに、⾃分の⼒で⽣きていきたい、と願う元気で、たくましい母親たちと子どもたちがいました。
以来、認可の夜間保育園を⽬指しました。昭和56年どろんこ保育園開園、昭和57年第2どろんこ夜間保育園を開園しました。そして保育に欠けるという望ましくない環境の中でも、教育的レベルで負けない子どもに育てようと、保育の質の向上に努めました。
保育時間の拡⼤と保育対象児童の拡⼤は、多様化する保護者のニーズにできるだけ対応することで、母親の仕事と子育ての両立を支援して、母親の働く権利、子どもを育てる権利を保障するものです。また、普通の昼間保育園では保護者の仕事時間、その他の関係で対応できない子どもたちの⽣きる権利、育つ権利を保障するものです。
しかし、現代社会では、男女雇⽤均等法、男女共同参画社会基本法を制定しなければならないほど、「両性の本質的平等」には程遠く、子どもの権利条約を制定、批准しなければならないほど、「子供の諸権利」は守られていません。
その影響は、保育園の子どもたちにも及び、特に夜間保育や長時間保育の子どもたちへの配慮は欠かせません。どろんこ保育園が保育の質向上のために「モンテッソーリ教育」を取り入れたのも「より⼿厚い養護を。より⼿厚い教育を。」の思いからです。大切なのは子どもの主体性です。私が思う子どもの主体性とは、子どもが、自ら考え判断し、選択・決定して、自分が最も自分らしいと思う行動、表現をすること、です。
「保育園は、ワーキングマザーのためにあるのではない。子どものためにあるのだ。」という声が聞かれます。しかし子どもは、自分だけ幸せになるなんてできません。どろんこ保育園の願いは『子どもの幸せ。子どもの幸せは母親の幸せ、そして家族みんなの幸せ』なのです。
TIMELINEエイビイシイ保育園 年表
1983年8⽉ ABC乳児保育園開園(24時間体制)
1987年4⽉ ABC保育園(兄弟園)を開園(24時間体制)
1990年9⽉ 新宿区⼤久保に新園舎竣 移転
1991年11⽉「職安通りの夜間保育園」丹⽻洋子著 出版
1997年9⽉「ABCは眠らない街の保育園」⽚野清美著 出版
2001年4⽉ 東京都の認可を受け、社会福祉法人杉の子会を設立
東京都で初めての24時間体制の認可保育園となる。
2002年1⽉ オーガニック給食開始。
2004年4⽉ エイビイシイ⾵の子クラブ(夜間学童クラブ)開設
2011年4⽉ エイビイシイ保育園(分園)開園
2013年4⽉ 夜間保育30年の実績が認められ、第47回吉川英治文化賞を受賞
2015年7⽉ オーガニック給食紹介 国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
2017年4⽉ エイビイシイひまわり教室(療育教室)開設
2017年9⽉ ドキュメンタリー映画『夜間もやってる保育園』公開
2020年1⽉ 第1回野⼝幽⾹賞を受賞
2022年10⽉ オーガニック減塩減糖給食開始
2026年3⽉ ドキュメンタリー映画『夜間保育からモンテッソーリへ〜子育ての未来〜』公開
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